ろくでもある大人たちが「いいね」と言った「ROE」
今日も初歩的な指標の話です。
「ろ(R)くでもあるお(O)となたちが「い(E)いね」と言った「ROE」について。
ではこのROEは日本語では何と言って、その計算式を教えてください。さて証券マンの皆さんどうでしょうか?この位になると正答率は95%位に落ちるのかもしれません。まだまだ基礎中の基礎ですよ。
もちろん答えはROE(アールオーイー・Return on Equity)で日本語では株主資本利益率と呼びますね。
計算式は、ROE(%)= 当期純利益/株主資本×100です。
株主資本は昨日解説したバランスシートの右側の純資産の中に占める構成要素で、資本金や資本剰余金、利益剰余金で新株予約権等を除いたもの。細かくやると眠くなると思うので詳しくは書きませんね。株主資本は自己資本と言ったりもします。
ではこのROEはどういう意味あいを持つ指標でしょう。読み方や式を覚えても意味が語れなければ実践では使えません。何でもそうですが、覚えるのではなくて意味を理解してお客様へ話すことで自分の血となり肉となります。
答えは、
株主から調達した資本(株主資本)からどれだけの利益を生み出していてるかを比率で表しているもの。つまり、投資家からすれば投資した資金をどれだけ効率的に株主へと還元されるべき利益へと結びつけてくれているのかがわかる指標です。
そして最初に申し上げておきますと、ROEが高い方が株主にとっていい会社ですが、ROEは株価の割安割高を判断する指標ではない、ということを頭にいれてください。
このROE、米国の企業は平均15%を超えるものの、日本企業は東証1部に上場する企業(金融・日本郵政除く)の2019年度決算で集計すると平均は6.7%で欧米企業と比較すると相対的にかなり低いです。日本の上場企業ではまずは8%を超えているか等を目安に使われることが多いですね。
ROEが注目され始めたのはアベノミクスの当初の頃です。経済産業省が主導で「ろくでもある大人たち」を集めて「持続的な企業価値の創造」をテーマに一つの報告書をまとめました。その座長が当時の一橋大学大学院商学研究科教授の伊藤先生でこの報告書をいわゆる「伊藤レポート」と呼んだりします。
劇的に簡単に言えば、「日本の株価が低いのは世界の投資家に認められていないからだ。グローバルな投資家から認められるために最低限 8%を上回るROEを目指せ。」という内容でした。これをきっかけに上場企業はROE上げなきゃモードに突入します。今で例えるならESG頑張らなきゃモードと似ていますね。東証もそれを後押しするようにROEの高い企業から構成される「JPX400」なんていう指数も作ったり、証券市場もROE祭りになりました。
そして祭りのあと、どうなったかと言うと、、、
・一時的には10%を超えた年もありましたが逆戻り。
・JPX400は日経225と比較して短期的に良い時期もあったがトータルで見たら惨敗
となり、つまりROEを高める文化はまだまだ根付いておらず、ROEが高い企業の株は上がると思ったがそうでもなくROEの数値だけをとらえて投資をするのは気をつけて、ということが言えます。
これは何故だと思いますか?このあたりから今日の本題です。
答えを知るにはROEを分解して考えなければいけません。いわゆるデュポンシステムというやつです。わかります?ここまで来ると正答率は50%位まで落ちるかもしれませんね。アナリスト試験にも出てくるので前向きな方はここで理解してしまいましょう。
そのデュポンシステムによりROEを分解を3つに分解すると以下の通りになります。
ROE(%)=①売上高純利益率×②総資産回転率×③財務レバレッジ×100です。
次に①~③を式に直すと、
ROE(%)=①(当期純利益/ 売上高)×②(売上高/総資産)×③(総資産/株主資本)×100となります。
この3つの式で売上高と総資産は分子分母の両方にあるので消していくと、残るのは元のROEの計算式である、ROE(%)= 当期純利益/株主資本×100になるのはわかりますね。眠くなってきましたか?もうひと踏ん張りなので耐えてくださいね。
次にROEを上げるために必要な①~③を解説しますと、
①売上高純利益率:売上高に対してどれだけの当期純利益を出しているか、収益性の良し悪しを測る指標。もちろん利益率の高い方が望ましいです。
②総資産回転率:企業の全ての資産を活用してどれだけ売上を生んでいるかを測る指標。回転率が高い方が資産を効率よく使って売上をあげていることになりますね。
③財務レバレッジ(※):株主資本の何倍の総資産を持っているかを測る指標。これは株主資本比率の逆数で、株主資本に対してどれだけ負債を抱えているかという指標のため、ただ高ければいいというものではありません。
(※ここは企業価値や株主価値を計算する上でとても重要な要素なのですが、もう少し基礎をおさえていないと理解が進まないと思いますので詳細は改めて解説しますね。)
つまり①本業の利益率を上げて、②資産を効率よく売上に結び付けて、③借金を増やす、ことによってROEは上げられるのです。
日本企業のROEが低い理由。それはこれらの要素のうち①と③の2つが低いことです。②は欧米と比べても互角です。
ここからは私見になりますが、
①利益率の低さについては、業務のIT化の遅れによってコスト効率を上げる努力が欧米に比べると見劣りすることや、困ったらバンバン首を切っていく欧米と違って日本は出来るだけ雇用を守ろうとするため、どうしても効率的な人員で事業が運営されていないことが考えられます。また日本では同様に倒産しそうな企業を殺さずになんとか再生させようとする文化もありますね。それは死に体の利益率の低い企業が市場に残り続けてしまっていることが考えられます。
③財務レバレッジの低さについては、日本の国民性でしょうか。皆さんのお客様も貯金好きですよね。将来のリスクに備えて蓄えておこうとするのが日本人ですよね。
加えて株主還元に対する積極性がまだまだ欧米と比較しても見劣りすることも挙げられます。そうなると利益剰余金が株主資本として溜まり、株主資本が増えてしまってROEを押し下げることになります。
ただ財務レバレッジについては伊藤レポートが出た2014年頃は、米国と比べてもそこまで大きな差ではありませんでしたので「日本も意外とレバレッジ利かせているな。間接金融が強いからかな」と感じたのを覚えています。さらにその頃は借入をして自社株買いをするリキャピタライゼーションと呼ばれる資本政策(※)がブームになっていましたので、そのあたりも影響しているのかもしれませんね。(※資本政策の話も面白いので改めて解説しますね。)
しかしここ数年は財務レバレッジは低下傾向にあり欧米との差は開きつつあります。
このようにROEという数値の高低だけを捉えるのではなく、日本企業の特徴を理解した上でもう一段掘り下げた数値で企業分析をする。ROEとは会社の実態をよりよく理解するための道具です。これが出来るようになると企業に対する理解が進み、より説得力のある提案が可能になると思うのでぜひ実践していただけると幸いです。
最後に、個人的に3つの項目をどのように考えているかをご紹介しますと、
③財務レバレッジについては、一般的的には数値が高い方が企業価値は高まります。しかしながら今コロナ禍で世界中の企業が苦しむ中で、日本の企業は株主資本を厚めにしていたために米国と比べると上場企業の倒産は少ないですよね。財務レバレッジは倒産リスクと比例するものなので、経済環境によっては結果的に低くて良かったということもありますから必ずしも低いからダメとは言えないと思います。
しかし借金が少なくても良しとしても、例えば企業が売上につながらない無駄な現金や有価証券、固定資産を抱えていていないかを財務諸表から確認する必要があります。そういう点で②総資産回転率にも注目することが必要です。日本が古くからの風習のように行ってきた企業同士の株式の持ち合いなんかは典型的で、グローバル投資家から見たら愚の骨頂といわれますよね。よく物言う株主が余っている現金を株主還元しろ、と。あれです。
そして最も大事な指標は①売上高純利益率ですね。コロナ禍で浮彫りなったIT化やDX関連での日本企業や日本政府の遅れは明白ですから、まさに急ピッチで進めていかないと世界と太刀打ちできなくなってしまいます。ここへの投資は将来の利益率の改善へと繋がり結果的にROEの向上に寄与していきますから、企業にはこの指標に対して一番注力して欲しいと思っています。例えIT投資によって一時的に利益が圧迫されたとしても、以降の利益率改善につながる投資であれば企業価値は高まるはずですからね。
企業のIR資料には今期・来期にどのような戦略で、どのような投資をしてどのような効果が期待されるのか、またどのような株主還元を行っていくのか等の説明がなされていることが多いです。ROEという指標を分解して企業を理解していれば、それらの企業行動が業績へどのように寄与していきそうなのかの理解が深まりやすいはずです。
すみません。だいぶ長くなってしまいましたね。
今日お伝えしなかったことは、
『「ROEが高いよ、低いよ」という単発的な説明ではなくて、もう一歩だけ踏み込んで分析するだけで、そこには全然違う世界が見えてくるよ。それが出来るとあなたの付加価値は格段に向上するよ』
ということでした。以上!
投資は自己責任で!